ボイジャー1号:これから10兆年の物語 | 4K

物理学・宇宙論
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1977年に打ち上げられた探査機ボイジャー1号の壮大な旅路を、木星や土星での発見から太陽系を脱出して星間空間へ到達するまで、さらに数百億年、数兆年先の宇宙の終焉までを射程に収めて描き出す映像である。地球を離れた小さな探査機が、星々よりも長く存在し続け、人類の存在を未来へと運ぶ姿を静かに語る一本である。

VOYAGER 1: The Story of the Next 10 Trillion Years | 4K
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静寂の宇宙を漂う小さな旅人

冷たい真空の宇宙を、小さく静かな旅人が漂っています。

その任務は、もともと外惑星を探査することでした。けれど今、その探査機が見つめているのは、宇宙そのものなのです。

自分を造り上げた世界をすでに離れ、やがては星々よりも長く存在し続けることになります。

太陽が燃え尽きたあとも、地球が時間の塵の中に書き残された記憶でしかなくなったあとも。

歴史よりも深い時間を越え、想像をはるかに超える距離を渡って、私たちが何者であったかというかけらを、私たちが決して目にすることのない未来へと運び続けるのです。

打ち上げと探査機に込められたもの

ボイジャー1号は、探査という営みそのものを書き換える旅を始めます。

打ち上げに使われたのはタイタンIII Eロケットで、その発射は姉妹機であるボイジャー2号のわずか2週間あまりあとのことでした。

このミッションが実現したのは、まれに訪れる好機があったからです。当時、外惑星はちょうど一機の探査機がスイングバイ航法を使って複数の世界を訪ねられるような並びになっていました。スイングバイは、短いはずの任務を太陽系を横断する旅へと変えるほど強力な手法です。

ボイジャー1号は、機器一式を搭載しています。カメラ、分光計、磁力計、プラズマ観測装置、それから世界と世界のあいだの宇宙を満たす高エネルギー放射線を測るための検出器などです。

しかし機体に固定されているのは、これらの観測機器に劣らず、いえ、もしかしたらそれ以上に重要なものかもしれません。

それは金メッキを施された銅製のディスク、ボイジャー・ゴールデンレコードです。

そこには、画像、音、何十もの言語で吹き込まれた挨拶、音楽、そしていつの日か誰か、あるいは何かが見つけてくれることを願って収められたメッセージが刻まれています。

さらに、近くにあるパルサーを手がかりに私たちの位置を割り出す方法を示した、地図と説明書も同梱されているのです。

最初の日から、帰還の予定はありません。ボイジャー1号は、真空、極低温、放射線に耐え抜き、与えられた仕事をやり遂げるだけの寿命をもって設計され、そのあともなお、物理法則が許すかぎり旅を続けるように造られているのです。

木星との出会い

ボイジャー1号は木星に到達します。それは混沌と稲妻に満ちた世界でした。

カメラがとらえたのは、惑星規模の乱気流です。最大時速1500キロにも達する暴風、現れては消えていく嵐、複雑な模様で重なり合う雲の層、そして地球をやすやすと飲み込めるほど巨大な、直径1万6000キロの嵐である大赤斑も写し出されました。

しかし、本当の驚きは惑星本体にはなかったのです。

木星の衛星のひとつであるイオの脇を通り過ぎたとき、科学者たちは信じがたいものに気づきます。

それは火山活動でした。地球以外の世界で、活発な噴火が現に起きていたのです。

噴煙のなかには高さ100キロにも達するものがあり、宇宙からでも見えるほどでした。

ボイジャーは、木星の他の大きな衛星であるエウロパ、ガニメデ、カリストも観測します。

画像のなかのエウロパは、明るくなめらかな姿で、暗い亀裂や筋が走り、氷と応力によって形作られた表面の手がかりを見せていました。ガニメデは独自の複雑な地形を見せ、カリストはクレーターに覆われた古びた姿を示します。

そしてもうひとつ、木星には目に見えない側面がありました。磁気圏です。

木星の磁場は途方もなく大きく、荷電粒子を捕らえて、地球周辺のものをはるかに上回る強烈な放射線帯を作り出しています。ボイジャーの観測機器はこれらの粒子を直接測定し、電子機器を破壊しかねないほど過酷な宇宙環境を地図にしていったのです。

接近観測を終えたあと、木星はボイジャーが何より必要としていたものを与えてくれました。重力アシストです。

ボイジャーは木星のそばを大きくスイングし、その公転エネルギーをほんのわずかだけ拝借し、それを速度と外向きの新たな軌道へと変換していきます。

土星と環、そしてタイタン

土星は、環に囲まれた淡い色の球体として現れます。

地球から見ると、その環はなめらかで明るい一本の帯のように映ります。けれど近づいたボイジャー1号は、その構造を明らかにしました。数えきれないほどの細い環、隙間、波模様、ふち。それらはすべて、重力と近くの衛星の引力によって形作られていたのです。

環は途方もなく巨大です。その大半は塵のような粒から岩塊までさまざまな大きさの水の氷の粒子で構成されていて、何十万キロにもわたって広がっています。

ボイジャーは土星の磁気圏もまた調べ、その内側を回る衛星たちにも目を向けました。

ある衛星は彫刻家のようにふるまい、環のふちを保ち、隙間を削り出していきます。別の衛星たちは、衝突や内部活動によって作られた表面を見せていました。

しかし、本命の標的はタイタンでした。

タイタンは水星よりも大きく、分厚い大気にすっぽりと包まれています。地表を完全に隠してしまうほど濃密な大気を持つ衛星は、太陽系のなかでタイタンだけです。大気の主成分は窒素で、そこにメタンや複雑な炭化水素が混ざり合い、表面気圧はおおよそ地球の1.5倍ほどあります。

タイタンが重要なのは、これほど分厚い大気とは、動き続ける化学反応そのものだからです。太陽光や高エネルギー粒子が分子を切り離し、組み替えて、より重い化合物を作り上げていきます。寒冷な外側の太陽系では、そうした化合物がもや、雨、地表の堆積物となっていくのです。

ボイジャーはタイタンに近接して通過し、自身の進路を曲げて、太陽系の外へと続く軌道に乗っていきました。

ペイルブルードット

1990年、ボイジャーは最後のひと仕事として、カメラを内側の太陽系へと向け直します。

およそ60億キロのかなたから、ファミリーポートレイトと呼ばれる惑星たちのモザイク画像をとらえたのです。

その一枚のなかに、地球がほんの小さな光の点として写っていました。それがあのペイルブルードットです。

人間のすべての物語、すべての夢、すべての思考が、たった一画素のなかに凝縮されていたのです。

ファミリーポートレイトの撮影が終わったあと、電力を節約するためにカメラの電源は落とされました。

ここから先、ボイジャーは秒速17キロの速さで星間空間との境界へと向かっていきます。

ヘリオポーズの通過と星間空間へ

最後の境界がありました。ヘリオポーズです。これは、太陽風の圧力と、星々のあいだを満たす星間物質の圧力がつり合う場所です。

ここを越えるのは、検問所を通り抜けるような出来事ではありません。ボイジャーがその瞬間を目で見ることはなく、検出するだけです。

ヘリオポーズに近づくにつれて、周囲の粒子環境が変化していきます。検出器は、ヘリオスフィア内部から来る粒子の急激な減少と、外から飛び込んでくる宇宙線の急激な増加を記録していきました。

そして2012年8月25日、ボイジャーはヘリオポーズを越え、星と星のあいだの空間、すなわち星間空間に入ったのです。

一光日の彼方と細っていく電力

2026年の終わりごろ、ボイジャーは259億キロの距離に達し、地球から1光日の距離に到達した最初の人工物となります。

地球と探査機のあいだを、光が片道で丸一日かかって伝わるようになったのです。いま送ったコマンドは、明日になって彼女に届きます。返事が戻ってくるのはそのまた次の日です。

それと同時に、ボイジャーの電力供給はじわじわと細っていきます。彼女を動かしてきた放射性同位体熱電気変換器は、年月とともに出力を落としているのです。

そしてその低下が、何十年にもわたって、ボイジャーに自分のシステムを一つひとつ停止させ、稼働を続けるために電力を切り詰めることを強いていきます。

60年後、そして交信の終わり

ボイジャーは旅を始めて60年が経ちました。

電力はかつての一部にまで落ち込み、観測機器のほとんどは沈黙しています。

NASAの現在の見立てでは、彼女がディープ・スペース・ネットワークと交信できる範囲にとどまれるのは、おおよそこの時期までだろうとされています。けれど通信が完全に途絶えるよりずっと前に、得られる科学的成果は、最後まで生き残った機器が測れるものだけに絞られていくことになるでしょう。

地球から見れば、彼女が死んでいくようには映りません。ただ、応答が返ってこなくなるだけなのです。

この時点で、ボイジャーはこの旅のほとんどの期間、すでにそうであったものに戻ります。深宇宙のなかを進む小さな旅人。誰かが耳を澄ませてくれているかどうかを、もはや知ることもできない旅人です。

4万年後、近くの星をかすめる

およそ4万年後、ボイジャーはグリーゼ445という別の星のそばを比較的近くで通過します。

もっとも近づいたときでも、その距離はおよそ1.7光年あります。

木星と土星でのスイングバイは、太陽系を横切るボイジャーの進路を作り直してくれました。けれど惑星の領域を出てしまえば、便利な加速の機会はもうありません。

星と星のあいだの距離はあまりにも巨大で、どれほど速い探査機でも、そこではのろい存在になってしまうのです。

このころにはボイジャーの無線はすでに沈黙しています。誰も日々の精度で彼女を追跡してはいません。彼女を造った技術者たちのことを、もう誰も覚えてはいないでしょう。

彼女は、もしかしたらもう存在していないかもしれない文明の遺品なのです。

数十億年後、銀河そのものが姿を変える

いまから30億年から40億年後ごろになると、物語の尺度そのものが変わっていきます。

ボイジャー1号はもはや、太陽系と意味のあるかたちでつながってはいません。彼女は天の川銀河のどこかにいます。その正確な位置を確かなかたちで再現することは、もはや不可能でしょう。

しかし、彼女の周囲の銀河は静止しているわけではありません。

私たちにいちばん近い大きな隣の銀河であるアンドロメダ銀河は、何十億年もかけて近づき続けてきました。

時間とともに距離は縮まり、やがてアンドロメダは空のなかで支配的な存在になります。

いざ衝突が始まると、アンドロメダと天の川銀河は互いをすり抜けるように通り抜け、重力がすべてのものを作り変え、二つの銀河はひとつへと合体していきます。

ボイジャーから見れば、それは何十億年にもわたって続く壮大な光景となるはずです。

10兆年後、星々の時代の終わり

現在の宇宙の年齢は、およそ138億年です。

10兆年は、それよりおよそ1000倍も長い時間です。

そのころには、明るく重たい星々が輝いていた、私たちのよく知る時代はとっくに終わっています。

非常に長い時間にわたって光り続けることができるのは、いちばん小さな赤色矮星だけです。彼らはゆっくりと燃料を燃やし、何兆年ものあいだ存在し続けます。けれど、その彼らとて永遠ではありません。

使える水素が閉じ込められていき、星の形成が遅くなるにつれて、銀河は星のなれの果てたちの集まりになっていきます。

夜空はまばらになり、宇宙そのものが静かになっていくのです。

ここまでボイジャーが生き延びていたとすれば、彼女はかつて天の川銀河を照らしていたほぼすべての現役の星よりも、年老いた存在ということになります。

宇宙そのものに消されるとき

星々の時代を越えると、時間軸はもはや理論の領域に入ります。

ひとつの可能性として考えられているのが、陽子崩壊です。

通常の物質は、原子そのものがばらけていくことで、少しずつ崩れていくでしょう。存在するすべてのものが、より軽い粒子へと溶けていくのです。

もしボイジャーがそれほど長く存続したとしても、そのころには宇宙そのものが彼女を消し去り始めていることになります。

彼女は、誰も想像しなかったほど遠くまでたどり着きました。

そして彼女のメッセージは、これからも残り続けます。広大な宇宙のなかで、生命というものが空を見上げ、手を伸ばしたのだ、というメッセージが。

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