ARMのAGI CPU:ARMが自らのルールを破り、ついにチップ販売を開始した!

半導体産業
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ARMが長年守ってきたIP提供企業という立場を自ら破り、ついに自社名義の物理チップを販売し始めたことの意味を解説する動画である。新しいARM AGI CPUの仕様やサーバー向け設計の特徴を紹介しつつ、なぜ今ARMがサーバー市場へ本格参入するのか、そして今後PCやノートPC、スマートフォン分野にまで踏み込む可能性があるのかを考察している。

Arm AGI CPU: ARM Just Broke Its Own Rules And Now Sells Chips!
Arm has announced a new product, the Arm AGI CPU, a new class of production-ready silicon built on the Arm Neoverse V3 p...

ARMがついに自社製チップを売り始めた

考えもしなかったことが起きてしまいました。豚が先に空を飛ぶと思っていましたし、猫が先に吠え始めると思っていました。けれどARMが、以前一度無料の帽子をくれたあのARMが、自前のシリコンチップを作り始めたんです。

しかもそれは、マザーボードに載せて差し込めば起動するタイプのチップです。ARMがチップもCPUも、あらゆるものを全部設計しています。

そして、それをそのまま載せられるんです。しかもIntelやAMDのように売っています。つまり彼らはチップメーカー、チップ販売会社になったわけです。

もう一度言います。ARMが物理チップを作っています。これまでの歴史の中でずっとIPを売る会社だったあのARMがです。つまり設計を売る会社だったということです。CPUの設計、GPUの設計、それらをほかの会社に売る。買った会社がそこからチップを製造する。TSMCのような会社が実際に製造を担当する。そういう形でした。

ところが今は、ARM自身がチップを作っているんです。製造はTSMCが行っていますが、それを買ってマザーボードに載せることができる。もう、笑ってしまうというか、何と言えばいいのかわかりません。

というわけで、もう少し詳しく知りたい方のために説明していきます。

今回のニュースの大きさと動画の流れ

これは明らかにかなり大きなニュースです。ただし、少しニュアンスもあります。

ARMが作っているのはサーバー向けチップで、そのあたりも含めて後で詳しく話していきます。この動画は大まかに二つのパートに分けて進めたいと思います。

まず実際のチップそのものについて、どんなものなのか、何ができるのか、そういった魅力的な部分を見ていきます。そのあとで、これが何を意味するのかについて、もう少し踏み込んで話します。

では、始めていきましょう。

ARM AGI CPUの実物と基本仕様

こちらがARMのCEO、Rene Haasです。この発表の基調講演で、新しい物理チップ、つまりARM自身が実際にまとめ上げた本物のチップを手に持っています。ですので、これは本当に実在する現物のチップです。

では、少しこのチップについて見ていきましょう。まず概要です。

最大136個のNeoverse V3コアを搭載しています。これについてはすぐ後でもう少し詳しく話します。各コアには2MBのL2キャッシュがあります。最大3.7GHzまでブースト可能です。

構成としてはデュアルチップレット設計になっていて、実質的には片側に68コア、もう片側にも68コアが載っていて、それをつなぎ合わせる形です。

そしてこれは高性能サーバー用途を想定しているので、非常に広いメモリ帯域、大量のI/O対応が必要になります。たとえばPCIe Gen 6を96レーン備えています。

つまりこれは、まさにサーバーに入るべき種類のものとして作られているわけです。製造プロセスはTSMCの3ナノメートルです。ただし、このプロジェクトにはSamsungとIntelも協力企業として名前が挙がっています。

Neoverseとは何か

ここで少しNeoverseについて話しておきましょう。Neoverseは基本的にARMのサーバー向けチップ群です。これが登場してからもうかなり年数が経っています。

ARMはもともと、すべてがバッテリー駆動を前提とした設計によって名を上げ、モバイル市場で圧倒的な地位を築きました。iPhoneもAndroidも、すべてARMアーキテクチャがベースです。

その後ARMは、その効率性をサーバーにも持ち込みたいと考えるようになりました。そこで用意されたのがVシリーズです。これは1スレッドあたりの性能を最大化するためのシリーズです。Geekbenchのシングルスレッドスコアが高く出るような方向性と言えばわかりやすいかもしれません。

つまり、電力やダイ面積への配慮はやや二の次にして、最高のシングルスレッド性能を狙う設計です。ここで言う面積というのはシリコン上のトランジスタ数のことです。

一方でNシリーズもあります。こちらは全体的な効率に最適化されています。消費電力と性能のバランスが重視されていて、そのぶん1つのプロセッサ内により多くのコアを載せやすくなります。熱の問題や消費電力の頭痛の種をそこまで気にせずに済むわけです。

この二つが主な系統です。さらにEシリーズもあります。

今回のチップはVシリーズベースです。つまりNeoverse V3です。V3は2024年2月に発表されました。ARM AGI CPUはARM V9.2ベースで、先ほど言ったように136個の高性能コアを搭載しています。各コアには128ビットのSVE、Scalable Vector Extensionユニットが2基ずつあります。

これはAIのような処理において非常に重要です。こうしたユニットはGPUの外側で多くの重い処理をこなせますし、CPU内部でそれを実行できるからです。

ARMによれば、これによってチップ上で高度なAIおよび機械学習の高速化が可能になるとのことです。Bfloat16とInt8の行列積にも対応しています。

先ほど触れたように、最大ブーストは3.7GHzで、標準的なベース周波数は3.2GHzです。

スポンサー紹介

ここで動画を少し止めて、僕の音声環境にとってかなり大きな変化をもたらしてくれた面白いものを紹介させてください。

このパートはMonoの提供です。今回、ポッドキャスト、配信、コンテンツ制作向けに設計されたPD200Wハイブリッドポッドキャスティングマイクを提供してもらいました。ワイヤレスなので、自由度がかなり高いです。机の上をすっきりさせられますし、もうケーブルだらけになることもありません。USBレシーバーをパソコンに差し込むだけで使えます。

さらに自由度を高めたいなら、そのレシーバーをiPhoneやAndroidスマホに差し込むこともできます。つまり完全にモバイルなプロ仕様の収録環境になるわけです。屋外でも、机でも、あるいはソファでも、いつでもどこでも録音できます。

今ここではファンを回していて、その音が音声にしっかり入っています。では、軽いノイズキャンセリングをオンにしてみましょう。

はい、これでノイズキャンセリングの第1段階です。もう違いが聞こえるはずです。さらに中程度のノイズキャンセリングを有効にすると、今ここにあるファンの音がはっきり取り除かれているのがわかると思います。必要ならこの上のさらに強いレベルもあります。

そのうえで、バッテリー駆動時間は最大60時間です。計算してみると、1日2時間録音しても1か月近く使える計算です。AndroidとiOS向けのアプリがあり、PD200Wの設定や操作ができます。デスクトップで使うなら、MonoはWindowsとMac OS向けのソフトウェアも用意しています。

もちろんワイヤレスマイクなので、ワイヤレスならではの自由さがあります。ただ、それだけでなくXLRケーブルでも接続できます。このマイクはワイヤレスの柔軟性と、プロレベルの明瞭さを無理なく両立させてくれます。

ポッドキャストでも、配信でも、コンテンツ制作でも、あるいはオンライン会議でただ明瞭に聞こえたいだけでも、PD200Wなら全部こなせます。音声環境をワンランク上げたいと思っているなら、下の説明欄のリンクを見てみてください。

Neoverseの実績と採用例

さて、Neoverseは実際かなりの成功を収めています。NVIDIAのGraceとVeraプラットフォームはNeoverseベースです。GraceチップはNeoverse V2ベースですし、Vera RubinチップはおそらくV3になると見られています。ただし正式発表はまだありません。

Graviton 4とGraviton 5は、それぞれNeoverse V2とV3ベースです。

MicrosoftのCobalt 100はNeoverse N2ベースでした。そしてCobalt 200ではNeoverse V3へ移行しました。

つまり、多くの企業がNeoverse N系やNeoverse V系のチップを作っているわけです。

サーバーやラックとしての実装

もちろん、チップそのものがあるだけでは十分ではありません。現実の世界、つまり世界中のデータセンターでは、それらをサーバーに載せなければならず、そのサーバーをさらにラックへ収めなければなりません。

ARMはそのあたりも最初からある程度整えています。参照用のサーバー構成がすでに用意されているんです。10Uの2ノード設計で、2つのチップに専用メモリとI/Oを組み合わせ、1ブレードあたり272コアを搭載します。

これらのブレードは、空冷式の36kWラックにフル搭載できるよう設計されています。

30枚のブレードを載せれば、合計8,160コアになります。それがそこに見えているフルラックです。

さらにARMはSupermicroと協力して、液冷の200kW設計にも取り組んでいます。そこにはARM AGI CPUを336基収容でき、総コア数は45,000を超えます。45,000コアです。

先ほど言ったように、最初のものは空冷です。ここにARMの効率性が生きています。ブレード背面にあるのは実質5基のファンだけで、それで温かい空気を外へ排出できます。つまり、すでに一般的に使われている既存インフラの中にうまく収まるわけです。

こちらがARMが公開した写真の二種類です。31Uサーバーで約8,000コアの構成、そして液冷のほうは45,656コアです。

しかもARMと取り組んでいるのはSupermicroだけではありません。ARMには参照設計があり、そこにSupermicroが加わっていて、さらにLenovoとASRockもARMと協力しています。

これらのサーバーは何のために作られているのか

では、これらのサーバーはどんなワークロード向けなのでしょうか。ARMはなぜこれほどサーバーやブレード、空冷構成に集中しているのでしょうか。いったい何のためなのか。

実はこの点について、Rene Haasが基調講演の中でかなり良い説明をしていました。

エージェント型クエリの時代に移るにつれて、人間1人あたりのトークン数は15倍、あるいはそれ以上に増えていきます。データセンターはもう限界に近づいています。トークンを生成するこれらの非常に高価なアクセラレーターは、今やそのトークンをクラウド経由で送り返さなければなりません。そこで今、大きなボトルネックが生まれているのです。

それが何を意味するかというと、ますます多くのCPUが必要になるということです。

ARMはなぜ今チップを自社で作るのか

そして、ここから当然次の疑問につながります。なぜARMは、これまで一度もやらなかったチップ製造に今になって突然踏み切ったのか。

その答えを見るには、ARMがこれまで何を出荷してきたのかを整理するとわかりやすいです。

左側にあるのはIP、つまり知的財産です。要するにARMはCPUやGPU、システムIP、それらをキャッシュコヒーレンシやバスなどでどうつなぐかまで含めて設計し、それをパートナー企業に販売またはライセンスしてきました。パートナーはそれを自社チップに組み込むわけです。

そしてここ数年は、Compute Subsystems、いわゆるCSSも始めました。

これはどういうものかというと、そうした各部品をまとめて、配管工事のような面倒な接続部分をかなりARM側でやってくれるものです。そして今度は、その配管まで全部やったうえで、それを実際の物理チップにしてしまったわけです。

この違いをイメージしやすくするために、組み立て家具で考えてみてください。いや、正確には全然組み立て家具とは違うんですが、要点をつかむには役立ちます。

誰かが家具を設計するとします。IKEAでもどこでもいいですが、その会社はどう組み立てるかも、どんな部品が必要かもわかっています。でも送ってくるのは部材だけです。穴はひとつも開いていない。必要なネジもない。必要なブラケットもない。ただ部材だけが送られてくる。これがIPに近いです。

設計そのものはすでに終わっていて、正しく組み上げればちゃんと完成する。でも、ただ組み立てるだけでは済まないんです。穴あけも自分でしなければならないし、合うネジも自分で探さなければならない。それでも最終的には組み合わさる。これがIPです。

一方CSSは、いわば組み立て家具プラスのようなものです。穴はあらかじめ開いている。ネジもブラケットも全部入っている。説明書もある。場合によっては一部が最初から組み立て済みかもしれない。たとえばブラケットがすでに付いていたり、取っ手が付いていたりする。そして、自分はここにこれを差し込んで、あそこにこれを入れて、何本か締めれば完成、という感じです。

それがCSSです。

そして物理チップとして完成したシリコン製品は、配送業者がただ完成品の家具をそのまま持ってくるようなものです。はい、完全に組み上がっています、どうぞ、という状態です。

今やARMはこの三つ全部をやっています。IP事業から撤退するわけではありません。CSS事業をやめるわけでもありません。でも、それに加えてシリコンチップ事業にも参入したのです。

これは市場にとって何を意味するのか

では、これが何を意味するのかをもう少し考えてみましょう。

まず対象はサーバーチップです。つまりこれは明らかにIntelやAMDがいる領域ですし、NVIDIAもGraceスーパーチップなどで参入している分野です。NVIDIAは今やCPUもGPUも含めた一式をまとめて売っています。AMDも同じように、ほぼ全方位で製品をそろえています。

つまり、かなり大きな相手に挑むことになるわけです。

もちろん、サーバー市場には大きなお金があります。最近ではRAM、ハードドライブ、SSDの価格上昇も見られますが、それはデータセンター需要、AI需要、そして今の私たちのオンライン活動全体の需要が非常に大きいからです。大きな売上が立つのはそこです。

ですから、当然ARMもそこを狙っているわけです。

しかもこの分野に入ることで、ARMはそれほどパートナーの足を踏むことにもなりません。NVIDIAについては少し微妙です。思い出していただければ、NVIDIAはかつてARMの買収を試みましたが、あれは成立しませんでした。NVIDIAは今、自社技術を全部詰め込んだスーパーコンピュータのようなものを売っています。

ですからARMは多少その方向へも入っていくことになりますが、直接の主な競争相手はIntelとAMDです。そこに大きな問題はありません。

ARMはほかの分野のチップも作るのか

では、ARMは今後ほかの市場セグメント向けのチップも作るのでしょうか。いくつか考えられる分野があります。

まずPCです。ARM製チップを搭載したARM製PC用プロセッサが登場し、マザーボードに載せられるようになるのでしょうか。

その場合、競合相手はIntelとAMDだけです。ですから理屈のうえでは可能です。

ただ、私はすぐにはそうならないと思います。なぜなら、そこに必要な投資額が非常に大きい一方で、得られる見返りが比較的小さいからです。PCの消費者市場は相対的にはそれほど大きくありません。もちろん何百万ドル、何千万ドルという規模の話ではありますが、それでも相対的には小さいのです。

ですから、すぐにそれが起きるとは思いません。将来的に起こらないという意味ではありません。十分ありえます。ただ、直ちに見られる動きではないでしょう。

もっとも、ARMが進出するとしたら最も自然なのはこの分野です。というのも、ここでは自社パートナーの足をそれほど踏まずに済むからです。

ノートPC向けプロセッサの可能性

では、ノートPC向けプロセッサはどうでしょうか。もちろんQualcommはノートPC向けプロセッサを作っていますし、MediaTekもノートPC向けプロセッサを作っています。しかも両社ともARMの大口パートナーです。

Qualcommはご存じのとおり、ARMアーキテクチャを使いながらも、ARMの設計そのものではない独自CPU設計の道を進んでいます。

一方MediaTekは、今でもARMの設計を使っています。つまりそこにはIP販売があり、Qualcommにはアーキテクチャのライセンス供与があるわけです。

なので、もしARMがノートPC向けチップを自社で作り始めれば、何社かの足を踏むことになりますし、関係者を不快にさせる可能性があります。

しかも、そこまで時間と労力を投じて投資する価値があるのかという問題もあります。Qualcommも試してきましたが、爆発的な売上を上げているわけではありません。

つまり、この分野にはすでに前例があり、人々が挑戦してきたけれど本格的に成功していないのです。Intelがあまりにも強固だからです。とくにWindowsの存在が大きいです。

Appleは別です。Appleは独自IPによるARMベースCPUを自分で設計し、それをMacBookで売っています。Macもスマホもタブレットも全部ARMベースです。

あれが可能なのは、Appleがエコシステム全体を支配しているからです。AppleがARMに移行すると言えば、みんなそれに従うしかありません。

ところがWindowsの世界では、PCを作るのはDell、OSを作るのはMicrosoft、ストレージは別会社、ディスプレイも別会社というように分かれています。そういう事情があるので、ARMがノートPC市場へ入っていくとは思いません。

スマートフォンやタブレットには参入するのか

さらにスマートフォンやタブレットに話を移すと、事情は同じです。ARMにはQualcomm、Samsung、MediaTekをはじめとする非常に多くのパートナーがいます。

しかもこのビジネスモデルはかなりうまく回っています。ARMが設計を行い、パートナーがチップを作る。この形がとても機能しているのです。

ですからARMがそこへ自ら入り込み、みんなを怒らせるようなことをするとは思えません。

もちろん、25年後や15年後に絶対に起こらないという話ではありません。でも今この先5年という範囲で見れば、それは起きないでしょう。

一方でサーバー市場には、実質的にそうした問題がほとんどありません。NVIDIAとの関係だけは少し興味深いところですが、先ほど言ったように、そこへ入っていって販売を試みることができますし、しかも利益率も大きい。それが狙いです。

ですから、今後どうなるかは非常に興味深いところです。

このチップへの期待と締めくくり

もちろん僕としては、こういうものをぜひ手に入れてみたいです。ただ実際には、こうしたものは巨大なラック構成で来るので、家に導入するには家ごと新しい電力網につなぎ直さないといけないでしょうけどね。

それでも、これは本当にいいです。いつかログインして、実際に少し触って遊べる日が来たらいいですね。

というわけで、皆さんがこれをどう思うのか、ぜひ聞いてみたいです。コメント欄で教えてください。とても面白いことになりそうです。

では今回はここまでです。また次回お会いしましょう。

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