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想像してみてください。いま、あなたの脳を小さなブラックホールが通り抜けて、穴を残していく様子を。これは最近、新しい物理学の論文で読んだことなんです。もしかしたら、それで私の脳にも穴が開いたんかもしれませんけど、この考えについて深く考えれば考えるほど、そんなに突飛な話でもないように思えてきたんです。
今頃には物理学者たちがブラックホールの形成時期や方法を解明してるはずやと思うかもしれませんが、実は10年前に比べて分かっていることの方が少なくなってきているんです。
物理学者たちは以前、ブラックホールには2種類あると考えてました。一つは、大きな恒星が核燃料を使い果たして崩壊する時にできる「恒星質量ブラックホール」で、太陽の質量の数倍程度のものです。もう一つは「超大質量ブラックホール」で、これは宇宙の極めて初期に形成された恒星の崩壊によって種が蒔かれたものです。
これらは他の恒星やガスを飲み込んだり、他のブラックホールと合体したりして成長していきます。中には太陽の10億倍もの質量まで成長するものもあります。これが理論やったんですが、データがそれを否定してきました。
ブラックホールの合体から検出された重力波によると、恒星質量ブラックホールは予想よりもずっと重く、時には10倍も重いことが分かってきました。
それにコンピューターシミュレーションでは、超大質量ブラックホールが観測されているほどの大きさまで成長するには時間が足りないことが示されています。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測でも、初期宇宙には予想以上に多くの巨大ブラックホールが存在していたことが分かってきました。というわけで、もしかしたら私たちはブラックホールの形成過程をそもそも正しく理解できていないのかもしれません。
自然にブラックホールが形成される条件が確認されているのは、二つの状況だけです。一つは恒星の崩壊。もう一つは、初期宇宙を満たしていた超高温・高密度のプラズマの揺らぎです。塊が多すぎてブラックホールに崩壊するスープを想像してみてください。これがその考え方で、こういったブラックホールはほぼどんなサイズにもなり得るんです。
これらは「原始ブラックホール」と呼ばれ、最初の恒星が誕生する前から存在していたことになります。原始ブラックホールはダークマターの候補の一つです。一見すると魅力的なアイデアに思えます。新しい物質を必要としないからです。でも、このアイデアはうまくいきませんでした。
因みに、この動画には理解度をチェックできるクイズが付いています。
問題は、ちょっとしたダークマターがあちこちにあるだけじゃないってことです。ダークマターは宇宙の物質の80%を占めているんです。それだけのブラックホールがあるとすれば、重力以外の観測可能な影響があるはずです。
最初の質量によっては、既に蒸発して光のフラッシュを残しているか、重力レンズ効果を引き起こすか、時々恒星を通り抜けて崩壊させているはずです。でも、そんな現象は一つも観測されていません。これが、原始ブラックホールがダークマターの正体やという考えが人気を集めなかった理由です。
でも、これは原始ブラックホールの存在自体を否定するものではありません。単にダークマターの説明としては適切ではないということだけです。ダークマターのことは忘れましょう。
原始ブラックホールそのものを探すべきじゃないでしょうか?私だけかもしれませんが、実際に自分の脳を通り抜けるブラックホールがあるのかどうか、知りたいと思います。
ここで新しい論文の出番です。著者たちは、小さなブラックホールが小惑星や惑星、あるいはそこに住む人々を通り抜けた場合、どんな結果になるのかを計算しています。
ブラックホールが十分に大きければ、惑星や小惑星の中心部が空洞になる可能性があります。これは、ブラックホールが捕らえられて内部に閉じ込められ、落ち込んでくる物質を食べ続けるからかもしれません。対象物よりも小さければ、トンネルを残すことになります。
これらの穴は信じられないほど小さいものになり得ます。スケール感を掴んでもらうために言うと、質量10マイクログラムのブラックホールの直径はおよそ10のマイナス35メートルです。小さすぎて実質的には何の影響も与えません。原子を引き寄せるほどの重さもないし、私たちを通り抜けても減速して捕らえられることもありません。ちょっとした…星の鍼治療みたいなもんですね。
論文に書かれているように「このようなブラックホールが人体を通過しても致命的にはならないはず」なんです。
ただし、ブラックホールが大きくなればなるほど、検出は容易になります。論文の著者たちは、物質に突然穴が開くのを探すべきやと言っています。ブラックホールがもっと大きければ、震源が移動するように見える地震を引き起こすかもしれません。地球では検出が難しいかもしれませんが、月では可能かもしれません。
ただし、論文で見落とされているように思える点が一つあります。私たちには非常に敏感な粒子検出器がたくさんありますし、CERNの人たちは検出器のどれかに穴が開いたことに気付いているはずです。古い岩石の痕跡を調べる同様の調査も行われましたが、何も見つかりませんでした。まあ、ブラックホールが論文を食べてしまったのでない限りですけどね。
とはいえ、ブラックホールが私たちの脳を通り抜けて、時々ニューロンを数個食べてしまうという考えは、多くのことを説明できるかもしれません。
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